電磁ノイズ対策とは? ノイズ発生源と対策方法、水晶発振器によるEMI対策について

電磁ノイズ対策とは?

電子機器に外部から強い電磁波が加わると、電子回路に本来意図しない電流が誘導され、想定とは違う動作を引き起こします。電子回路に障害を与える電磁波を電磁ノイズと呼び、この電磁ノイズの対策をとることは、電子機器を設計する上で必要不可欠な工程の一つです。

電磁ノイズ対策の考え方とEMC

電磁ノイズ対策の考え方としては、2種類に分類されます。

① 電子機器から発生する電磁ノイズを抑える
➁ 電子機器への電磁ノイズの侵入を抑える「EMS対策」

この両方の対策を取る事をEMC(Electromagnetic Compatibility)といい、“電磁的合成”や“電磁環境両立性”などと訳されて使われています。

① ノイズを出さないようにする「EMI対策」

電子機器から発生する電磁ノイズを抑える事をEMI対策(Electro Magnetic Interference:電磁妨害)もしくは、
エミッション対策(Emission:電子機器から放出される不要な電磁ノイズ )と言います。

➁ ノイズ耐性を高める対策「イミュニティー対策」「EMS対策」

電子機器への電磁ノイズの侵入を抑える事を
イミュニティー対策(Immunity:免疫性)もしくは、
EMS(Electro Magnetic Susceptibility:電磁感受性)を高める対策と言います。

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ここでは、電子機器から発生する電磁ノイズを抑える、EMI対策について解説します。

EMI対策の主な方法

電子機器から放射される電磁ノイズの対策は、使用する電子部品や基板配線方法が複雑に絡み合い、決定的な対策方法が存在するわけではありません。しかし、ノイズ発生源となりうる電子部品の特性、ノイズ伝達・放射の要因となりうる基板配線設計を理解することで、有効なEMI対策を探していくことが重要となります。

EMI対策の考え方

EMI対策を考える上で、以下の2つに分けて考えることが有効です。

① ノイズ発生源
➁ 伝達経路

① ノイズ発生源

代表的なノイズ発生源として、信号が挙げられます。信号は、電圧や電流の変動をさせることで情報伝達しますが、電流の変動によりその周囲には電磁界が発生し、ノイズが放射されます。信号に含まれる周波数が高くなるほど、放射されるノイズは大きくなる傾向があります。ここで言う信号は、水晶発振器が出力するクロック信号も含まれます。

➁ 伝達経路

ノイズの伝達経路により、3つのノイズの種類があります。

伝導ノイズ 電子部品が発生するノイズが、直接電源ラインや信号ラインなどの配線を介して伝達する形態
誘導ノイズ ノイズが流れるラインが、他の信号ラインや電源ラインに近づくことで電磁誘導や静電誘導を引き起こし、ノイズが誘導される形態
放射ノイズ 電子部品で発生したノイズが、部品自体、もしくは接続される電源ラインや信号ラインがアンテナの役割となり、空間に放射される形態

ノイズ発生源としての水晶発振器

電子部品のうち、水晶発振器はクロック信号を出力する能動素子ですので、電磁ノイズの発生源の一つとなる場合があります。水晶発振器から発生するノイズは、図1に示す通り大きく3つに分類されます。


① 電源ラインからのノイズ
② 出力ラインからのノイズ
③ 水晶発振器からのノイズ

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一般に、水晶発振器とその周辺回路より発生するノイズのうち、出力ラインからのノイズが最も大きく、続いて電源ラインからのノイズとなり、水晶発振器からのノイズは上記2つと比較すると非常に小さい傾向にあります。 以下に、各ノイズの説明と主な対策法を示します。

① 電源ラインからのノイズ

水晶発振器の動作中は、電源に微小な高周波ノイズを重畳させます。そのノイズが、電源ラインを介して伝導ノイズ、もしくは、放射ノイズとなって伝達します。主な対策法は、バイパスコンデンサによるフィルタリングになります。ノイズの周波数帯で低インピーダンスとなるバイパスコンデンサを、水晶発振器の電源端子とGND端子のごく近傍に設置することで、ノイズ抑制につながります。また、水晶発振器に流れてくるノイズに対しても有効なため、安定動作が期待できます。

➁ 出力ラインからのノイズ

水晶発振器のクロック信号出力に反射波が含まれる場合、出力ラインを介して放射ノイズとなって伝達します。主な対策法は、出力ラインがアンテナの役割をしないようにインピーダンス整合をさせて、反射波によるオーバーシュート・アンダーシュートやリンギングを防止することが挙げられます。CMOS出力の場合、直列抵抗(ダンピング抵抗)でインピーダンス整合させるのが一般的です。

③ 水晶発振器からのノイズ

水晶発振器に内蔵するICや配線から発生するノイズを指します。電源ライン・出力ラインからのノイズと共通した対策により、水晶発振器を安定動作させることが重要です。

水晶発振器でのEMI対策

前述の通り、水晶発振器はクロック信号を出力するため電磁ノイズの発生源となりますので、電子機器の設計をされる際にEMI対策を講じて頂く場合があります。主な対策は、水晶発振器の周辺回路の設計変更(部品追加・基板配線パターンのレイアウト変更)が伴うため、もし設計最終段階でEMI対策が必要なことが判明しても、有効な対策を講じることが困難な場合があります。
エプソンの水晶発振器 SG-9101シリーズは、現在使用している水晶発振器から置き換えるだけで電磁ノイズの低減効果が期待でき、EMI対策の一つとなる製品です。

水晶発振器でEMI対策ができる理由

水晶発振器の主な電磁ノイズ発生源は、出力ラインからのノイズです。出力ラインからの放射ノイズを低減するためには、クロック信号に含まれる周波数成分のピークを抑制することが有効となります。それを実現する方法として、スペクトラム拡散 (Spread Spectrum; 以下SS) というものがあります。これは、水晶発振器の出力周波数に対して周波数変調をかけることで、クロック信号の周波数スペクトルの幅を広げ、ピークを鈍らせるという方法です。
図2に、水晶発振器のクロック信号の周波数スペクトルを示します。通常の水晶発振器出力の周波数スペクトルは、鋭いピークを示しています。一方、SSをかけた水晶発振器出力の周波数スペクトルは、図3に示す通り、広がりを持ちピークが低減していることがわかります。

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図2 水晶発振器出力の周波数スペクトル

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図3 SSをかけた際の周波数スペクトル


また、電子機器内で高速通信を行う場合、高ビットレートのデータ信号が信号ラインに伝送されることで放射ノイズが発生し、EMI対策が必要となる場合があります。高速通信のリファレンスクロックにSS機能を持つ水晶発振器を使用することで、通信信号に対してもSSがかかるので信号ラインのEMI対策も行えるというメリットがあります。
例えば、MFP (Multi-Function Printer) やAD/ADAS (Autonomous Driving system/ Advanced Driver-Assistance Systems)のような車載システムのように、複数の機能を持つ基板が一つの筐体内で稼働する電子機器では、機能同士を接続する信号ラインからも放射ノイズが発生してしまうことから、SS機能を持つ水晶発振器によるEMI対策が効果的となります。

エプソンの水晶発振器の特長

エプソンの水晶発振器 SG-9101シリーズはSS機能を搭載しておりますので、前項で説明したMPFや車載システムをはじめとする電子機器においてEMI対策に最適な製品となっております。サイズは、水晶発振器の主要サイズ 7 x 5 mm, 5 x 3.2 mm, 3.2 x 2.5 mm, 2.5 x 2.0 mm の4種を取り揃え、業界標準の端子位置・配列となっているため、EMI対策による製品置き換えも容易です。また、SSの以下の各種設定も、お客様の設計・EMI状況に合わせて選択可能となっています。

・拡散タイプ:2種類 (センター拡散, ダウン拡散)
・変調幅:6種類 (0.5 %, 1.0 %, 1.5 %, 2.0 %, 3.0 %, 4.0 %)
・変調周波数:4種類 (25.4 kHz, 12.7 kHz, 8.5 kHz, 6.3 kHz)
・変調形状:3種類 (Hershey-kiss, Sine-wave, Triangle)

それぞれの設定値とクロック出力信号の周波数スペクトルの関係は、 こちらを参照ください。

また、車載用を除くSG-9101シリーズは、ブランクサンプルと専用ライター (SG-Writer II) をご準備頂ければ、お客様にてご希望の周波数、SSの各種設定が可能となっております。 詳細は、SG-9101シリーズ製品ページをご確認ください。

SG-9101CA (Size: 7 x 5 mm)
SG-9101CB (Size: 5 x 3.2 mm)
SG-9101CE (Size: 3.2 x 2.5 mm)
SG-9101CG (Size: 2.5 x 2.0 mm)
SG-9101CGA (車載用、Size: 2.5 x 2.0 mm)


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