第2回 微細な加工が正確な時を刻む

2009年8月

第2回 微細な加工が正確な時を刻む ~江戸の小型高精度部品とQMEMS水晶振動子~

万年時計(レプリカ) 提供:東芝科学館

宣教師フランシスコ・ザビエルによって伝えられた機械式時計は、和時計として江戸時代を通じて独自の発展を遂げました。小型で強力な動力源であるゼンマイの導入や歯車やカムなどの小型化は、和時計の多様化を加速し、小型の置時計や懐中時計も生まれました。
和時計の最高峰と言われる万年時計は、多くの計測・表示機能が凝縮されています。その複雑で独創的な機構は、高精度に加工されたゼンマイや小型化部品によって支えられています。現代の時計やマイコンでは、音叉型の水晶振動子が用いられますが、従来のまま小型にすると特性面への影響が課題となっていました。エプソントヨコムでは、振動片に微細な加工を施すQMEMS技術により超小型で高安定な水晶振動子や水晶発振器、RTCモジュールを提供し、正確な時の刻みを支えています。

「不定時法」が招いた和時計独自のメカニズム

和時計が独自に進化を遂げた理由のひとつが、当時日本で採用されていた時刻法「不定時法」。これは日の出と日の入りを基準にするもので、時の長さが昼夜や季節によって異なっていました。そのため和時計職人は時刻に応じて速度を自動調節する二挺天符など、独自のメカニズムを考案しなければなりませんでした。
また西洋から強力な金属ゼンマイが渡ってきたことで、時計の小型化は進み、さまざまな形状に進化していきました。

当時のさまざまな和時計

枕時計、印籠時計、卓上時計、櫓時計

和時計は小型精密部品の集積

たとえば幕末-明治の天才エンジニア、田中久重が製作した「万年時計」はその多機能さと正確さで、和時計の最高峰といわれます。その精密な機構と正確な時の刻みを支えたのが、ゼンマイ、歯車類、調速機など1000点を超える手作りの部品群の精密な加工です。やがて明治時代を迎え西洋の定時法が採用されると、和時計はその使命を終えます。しかしそこに秘められた技と知恵は、明治の産業・工業の発展を支えるものづくりの源流として広がっていったのです。

不定時法による文字盤位置

1.文字盤が自動的に移動して不定時法に対応します。


夏至の場合

動く文字盤のメカニズム

2.文字盤に組み込まれたクランクが歯車と連動。
1年に1度の往復運動をします。


和時計(二丁天符 袴腰形櫓時計)内部と構成部品

写真提供:鎌倉昔工藝

QMEMSにより小型化・高安定化する水晶振動子

部品の精密加工とゼンマイという新技術の導入によって、和時計の小型化が加速したように、20世紀後半、小型水晶振動子を用いたクオーツ時計が登場。時計の小型化と高精度化は一気に加速しました。

時計史に革命をもたらした、世界初のクオーツウオッチ
セイコー クオーツアストロン 35SQ(1969年)


今日、水晶振動子は時計だけでなく、マイコンや電子回路のクロック発生源としても欠かすことができません。そして機器の高速化・多機能化とともに、水晶振動子には常に小型化と高精度化が要求されています。

エプソントヨコムではかねてから、水晶振動子の機械加工による小型化の限界をみきわめ、フォトリソグラフィによる加工技術を確立し、音叉型水晶振動子の小型化をリードしてきました。

しかし近年、水晶振動子を小型化する上で新たな課題となったのが、電界効率の低下です。音叉型の水晶振動片は腕となる部分の屈曲運動によって発振します。小型になるにつれCI値(Crystal Impedance)が高くなり、抵抗成分の増加によって振動損失が多くなってしまうのです。そこでQMEMS技術を用い、腕の表面にフォトリソグラフィ加工による微小な溝を形成することで、電界効率を高めこの問題を解決。小型・薄型化と高安定な特性を兼ね備えた水晶振動子、水晶発振器、RTCモジュールなどを生み出しています。
またこの他にエプソントヨコムでは水晶発振器の出力周波数を制御し、高安定化したルビジウム発振器もラインナップしています。その誤差は時計に換算して300年に1秒以内という精度を誇ります。

QMEMS 超小型 kHz帯水晶振動子 ラインアップ

フォトリソグラフィ加工によりバラツキの少ない安定した特性を実現するともに振動片を3次元立体加工するQMEMS技術により、更に超小型・高精度・高安定なkHz帯水晶振動子をラインナップしています。

FC-12M

公称周波数範囲 32.768kHz 32kHz ~ 77.5kHz
周波数許容偏差 ±30×10-6(+25℃)
直列容量(C1値) 90 kΩ Max.
周波数温度特性 頂点温度 +25℃ ±5℃
二次温度係数 -0.04 × 10-6/ ℃2 Max
外形寸法 2.05 × 1.2 × 0.6t (mm)

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